◆坂 有利子(さかゆりこ)
日本彫金会会員。
短大の芸術コースで彫金と出会う。
山脇美術専門学院ジュエリー・アート科(現・ジュエリー・デザイン科)へ進み、在学中に谷中彫金工房にて江戸彫金(現・東京彫金)の流れを組む3人の彫金師の先生方に師事。
卒業後、アクセサリー関連会社2社を経て、2008年より母校・山脇美術専門学院の非常勤講師を務める。
大好きな自然をモチーフにしながら、斬新で自由な発想を伝統技法で表現する。
毎日使えるものをモットーに学生時代から作品を作り続けている。
写真の方が、彫金師の坂さんです。
銀や彫金へのこだわり、彫金の技法などについて、たっぷりとお伺いしてきましたのでぜひご覧ください。
インタビュアーは、日本の手仕事や職人さんが大好きな石井さんです。
石井
彫金師というと、昔ながらの伝統工芸品的なものをイメージしていたのですが、坂さんの作品は全く違いますね。
素材もいろんなものがあります。
坂
銀はもちろんですが、真鍮に銅、こっちは金を使ったり、あと七宝もあります。
石井
デザインも現代感覚がしっかりあってすぐに使えますし、見ていてもとても楽しいです!
でも、ここに江戸彫金という伝統技術が使われているんですね。
坂
江戸彫金というのは、江戸時代の装剣金具が発展した頃、当時としては斬新な「絵風彫刻」や「片切り彫り」などが、町彫りとして広まったのが始まりとされています。
刀の目貫や印籠、煙草入れの金具などの装飾品に使われるようになりました。
石井
装剣=剣を装う。
なるほど、江戸は侍文化です。
刀にそういった装飾が生まれるのは自然ですね。
坂
幕末から明治に入ると、彫金額や帯留金具などが多くなっていきました。
今は「東京彫金」といわれ、彫金額や帯留の他、ブローチやペンダント、指輪など日常使えるアクセサリーを作ることが多いです。
石井
服飾文化や生活様式とともに装飾品は変わっていきます。
でも使われている技法は、昔ながらの彫金で。
彫金というとどんな技法になるんですか?
坂
いろんな種類の鏨(たがね)を使って、銀・金・白金(プラチナ)・銅などの金属に文字や模様を彫刻して、切ったり削ったり。
打ち出しという技法は、平らな板から形をつくっていくなど、象嵌(ぞうがん)も彫金の技法のひとつになります。
石井
西洋とは違う、日本ならではの造り方や鏨を使った彫りなど、独自の技法があるんですね。
鏨というのはどれになりますか?
坂
これが鏨です。
ここと、この引き出しにも入っています。
石井
これ全部鏨?
全部違うもの?
何百、いやもっとありますか。
坂
何本でしょう。
いただいたものもあります。
使わない彫金道具があるから使ってくれませんか、というお話があって。
それが、たまたま私の彫金の先生のお師匠さんと兄弟弟子の方の道具だったり。
また、趣味で彫金をやっていたけれど使わなくなってしまった、というのもあったり。
そんなの捨てるなんて考えられない!って言って譲っていただきました。
結構錆びついてたんですが、全部きれいにして使わせていただいてます。
石井
捨てるなんて考えられない、錆びついても使う。
とても貴重ということですね?
坂
鏨は、彫金師さんがすべて手作りしたものなんです。
鏨だけじゃなく、道具はみんな自分で作ります。
石井
道具は命、プロとアマチュアの違いは道具だと聞いたことがあります。
彫金の世界も、道具次第なのかもしれませんね。
坂さんが彫金と出会われたのはいつ頃ですか?
坂
専門学校の授業で伝統彫金というのがあって。
そこで鏨の授業をうけて・・・。でも、最初はすっごく嫌いだったんです。
石井
大嫌いだったんですか。
坂
授業は最初、道具を作るところから始まるんですけど、道具を作れない、上手く彫れない、打ち出しの授業もあるんですけど、模様も出せない、地金(金属)が破れちゃう。
全然できないので、嫌だなと思ってたんです。
石井
確かにできないと嫌ですね。
それなのに今は彫金師でいらっしゃる、何かきっかけはあったんですか。
坂
たまたま学校併設のギャラリーで、伝統彫金担当の先生のお師匠さんの作品展があって、その作品を見たらデザインが斬新なんです。
もちろん昔っぽいものもあるんですが、幅広く技術もすごい。
これならやってみたいなと思って。
そこから一所懸命やるようになったら、できるようになって面白くなりました。
石井
なるほど。
ということは、彫金への興味はもともと無かったということですね。
坂
小さい頃から絵が好きで。
高校生くらいの時、デザイン系の仕事には興味があったんです。あと音楽も好きでバンドもやっていました。
ただ音楽では食べていけないと親に泣かれてあきらめました。
そこで、短大の家政科の芸術コースに進みました。
石井
家政科で芸術コースって珍しいですね。
坂
服を縫ったり、調理実習もあって、建築にお花とか、全般的に学べる学校だったんです。
週1回彫金の授業があって、面白くなってしまって。
先生から、「あなたそんなに好きだったら、教室に通えば?」っていわれたんです。
そこで教室に通いました。
石井
週1回では物足りなかった。
坂
面白くて通いました。
そしたら教室の先生に、「あなたそんなに好きだったら、専門学校に入れば?」といわれて。
その先生が、専門学校のジュエリー科の科長をされていたんです。
短大卒業後に専門学校に進むってすごく迷ったんですけど、楽しくて結局専門学校に進みました。
石井
それが山脇美術専門学院ですね。
坂さんは短大や教室でも学ばれていますから、学校ではより専門的に高めていく感じですか?
坂
専門学校では、広くジュエリーの事を学びました。
七宝、とんぼ玉の授業や、チェーンを作ったり、石の研磨もやりました。
いろんなことの基礎を学んでいくので、就職先の幅が広がりますし、知識が多いので働いてからも応用できるカリキュラムになっています。
石井
本当に幅広いですね。
ジュエリーやアクセサリーの製作が一通り学べる。
坂
授業の一つに伝統彫金があって、そこで鏨の授業をうけました。
石井
最初は嫌いだった授業ですね。
でも、斬新なデザインと高い技術の作品を見て触発され、頑張ったらできるようになり面白くなった。
坂
そうなんです。
そうしたら先生が「そんなにあなた伝統彫金に興味があるなら、別の教室もあるから通ってみる?」といわれて(笑)
専門学校に行きながら、谷中彫金工房に通うようになりました。
そんな感じで上手くつながって行ったんです。
石井
心のままにやりたいことに向かっていったら、導かれたって感じですね。
谷中の工房はいかがでしたか?
坂
江戸彫金の流れを組む3人の先生方に指導していただいて、いろんな技法を学びました。
それに「好き」で集まった仲間と、刺激しあいながら作品を作っていったのでとても楽しい時間でした。
すでに卒業しましたが、今も時々行って分からないことがあったら聞いたりしています。
石井
今も続く、素敵な出会いですね。
卒業後は就職されましたが、今は山脇美術専門学院の講師をされているとか。
坂
アクセサリー関係の会社に勤めて楽しかったんですけど、化学系の溶剤にアレルギー反応が出てしまって体調を崩し、続けられなくなりました。
その後はアルバイトをしながら作品を作ったり。
お声をかけていただいて、週2回非常勤講師をさせていただいています。
あとは作品づくりです。
石井
展示会や個展もされていますね。
個展を経験することで作品が変化したりしましたか?
坂
自然のモチーフが好きというのは変わらないのですが、個展ごとに刺激を沢山頂いているので、自分では気が付かないうちに少しずつ変化しているかもしれません。
後はお客様のご要望で作ったり、電鋳会社やジュエリー会社さんから原型のオーダーをいただいたりしています。
石井
原型というと、量産するものを鋳造するためのものですね。
一般的にはキャド(CAD)というコンピュータで作るものがほとんどだと聞いていますが。
坂
彫りの細やかな表現は、CADではできないからという方もいたり。
彫るという仕事が一番好きなので、それができるのが嬉しいんです。
石井
でも最初は嫌いだったんですよね(笑)
坂
そうなんですよ、大嫌いだったんです。
でも、今はずーっと彫っていたいくらい大好きです(笑)
谷中の先生から「坂さん生まれる時代間違えたね」っていわれたんです。
今は作品を作るすべての作業を一人で仕上げるんですけど、昔は打ち出し、彫り、仕上げなどすべて分業制で違う人が担当します。
だから、彫りだけの仕事があればよかったねと(笑)
石井
本当に彫ることがお好きなんですね。
坂
そうですね。
ずっと彫っていたいです。
石井
彫ることのおもしろさってなんですか?
坂
なんでしょう・・・とにかく無心になれることでしょうか。
石井
確かに好きなことをしているときって、時間も忘れて無心になります。
心が喜んでいるような感じなのかもしれませんね。
この中で、彫りの技法はどれになりますか?
坂
この指輪は彫り崩しといって、地金の周りを削っていって彫刻みたいにしているんですけど。
元々甲丸という蒲鉾状ののっぺりとした感じの指輪だったんです。
こういうところも彫ってあって、違う感じを出しています。
石井
シンプルな結婚指輪にあるような甲丸リングがこんな風に変わるんですね。
作品に葉っぱのブローチがありましたが、あれも彫りですか?
坂
あれは、ちょっと鏨を打って葉っぱのガサガサ感を出しています。
「荒らし」という技法で、こういう鏨を作っておくんです。
石井
あの鏨は、すべて手作りということですね。
この模様を手作りで作り、地金に打つことで模様のように仕上げていく、これが荒らし。
今回の銀のスプーンも、この荒らしが特長ですね。
坂
荒らしにもいろんな大きさや模様があります。
だから、大きさや模様を変えて1本1本荒らしの鏨を作っていくんです。
石井
作品の形によるかもしれませんが、ある模様の鏨を1本作っても、打つ部分の大きさや角度によっては打てなくなります。
広く大きな面に打つ鏨と、丸みのあるところや小さな面に打つ鏨では違ってきます。
だから鏨はたくさん必要で、いっぱいあるということですね。
坂
谷中の先生の鏨は、もっともっといっぱいありますよ。
石井
ということは、一つの作品を作ろうと思ったら、それだけのためにたくさんの鏨が必要ということですか?
坂
はい。
必要であれば、作品ごとにその都度作ります。
鏨だけじゃなくて、荒らしの金鎚も自分で作るんです。
石井
金鎚も作るんですか?
坂
金鎚の柄を抜いて、火にかけてなまして、模様を彫って、もう一度焼きを入れ直して、また柄をつけます。
石井
スプーンは、どの段階で荒らすのですか?
坂
最初に、板の状態で荒らしの金鎚で打ち付けてます。
荒らしをつけた後に型紙に合わせて切っていきます。
スプーンの丸みは、切り出した後、木の鏨があるんですがそれでちょっとずつ叩いて丸みをつけていきます。
でも叩くことで、最初につけた荒らしが少しづつ消えていくんです。
そういう時に、この小さい荒らしの鏨で補修するんです。
だから、ちょっと手間がかかるというか・・・。
石井
いや、ずいぶん手間がかかっています(笑)
荒らしだけでも、金槌と小さな鏨が必要ですよね。鏨のそこにまた丸みをつける木の鏨があって・・・。
だから、なんともいえない繊細というか柔らかな味わいがでてくる。
厚みも変わりますか?
坂
元の板の厚みは1.2mmなんですけど、叩くと大体1mm位になります。
石井
荒らしは両面叩くんですよね?
坂
そうなんです。
裏を叩くときには、下の台に布を一枚挟みます。
そうしないと荒らしが消えちゃうんです。
石井
神経を使いますね。
叩くということは、板も歪みも出てきますよね?
坂
少しだけアールがついたりしますから、この木槌で叩いてまっすぐにしてから型紙を合わせて切り出します。
石井
切り出すときは、型紙よりも大きめに切るんですか?
坂
切った後の断面はヤスリで整えるので、0.5mm位大きめですね。
その分は、ヤスリできれいに仕上げます。
石井
切った後の断面を触っても、まったく当たるところが無く滑らかです。
また荒らしの模様と、きれいに仕上げられた際のラインが際立って、陰影感が出ていますね。
さりげないニュアンス感というのか、優しく繊細なスプーンです。
坂
切った後の断面部分は、ヘラという道具で磨きます。
これも種類があって、加工して使っています。
石井
ヘラも加工するんですか?
坂
そうですね。
ヘラもそうですし、キサゲ(金属を削り取る道具)も自分で作るので形がいっぱいあるんですよ。
使い古したヤスリも、好きな形に作り替えちゃいました。
石井
どんな用途に使うんですか?
坂
カーブを削るのに使います。
打ち出しとかした時に表面がボコボコするので、それをきれいに擦るのに使う用なんですけど。
いただいたのも混ざりつつ。
石井
この金鎚、全体の形がオシャレできれいですし、持ちやすそう。
坂
柄は生えてた樹を使っちゃいました。
石井
生えてた樹?
坂
柄は硬い樹がいいんです。
たまたま樫の木があって、切るというので、その枝頂戴っていって。
自分で削って付けました(笑)
石井
こっちもいいですね。
坂
これはよく使う物なので、元々真っ白だったんですけど、茶色くなってきちゃって。
石井
金鎚の部分はご自身で作り直されているんでしたよね。
坂
道具の鉄も、昔の方が密度が高くていい鉄だったんで、重いんです。
だから昔の鉄の方がいい金鎚ができるんですけど、今は、正直あまり良くないものが多いです。
鉄は自分で溶かして作れないですが、せめて形だけでもと、先生の金鎚の形を真似して削りました。
石井
大量生産とかコストダウンでそうなっていってるんですね。
もちろん道具は命ですが、既製品をそのまま使えないんですか?
坂
作るのが好きなので、変わり者っていわれています。
ただ結局、思うとおりにできますし、作業が早くなるので。
石井
スプーンのデザインですが、りんごも上に葉っぱがあるのが可愛い。
ひょうたんと梅の組み合わせ、和なんですがモダンな印象もあって気になりました。
坂
普通のスプーンじゃないのを作りたくて。
りんごは実りで縁起がよくて可愛い。
ひょうたんも子宝とか縁起がいい。
それにプラスして、ちょっと「え?」という感じを作りたくて、梅模様と合わせました。
一体型じゃあちょっとやだな、取り外し可能にしてペンダントトップにしようと思って。
梅は、丸線をまとめて水引みたいにして、ちょっと難しかったんですけど。
石井
板ではなく銀の丸線を組んで?
坂
0.5mm位のものを3本組んで、裏から蝋付けをして固めていきました。
裏も水引の感じをだしたかったのできれいに仕上げて。
石井
根気のいる作業ですね。でも実際は裏側はこんもりしています。
坂
梅の水引は量産したいなと思って、原型から鋳造できるようにしたんです。
その時に、薄すぎて鋳造はできないといわれ、軽やかでよかったんですけど、裏を盛り厚みを作りました。
1個1個手作りすると、梅の水引の部分だけでかなりの時間と手間がかかるので断念しました。
あと、ひょうたんスプーンの棒が入るように下の部分をへこませて。
裏の肌に当たる部分も、優しいカーブを作って身につけていただいた時に収まるようにしました。
石井
ちょっとしたことで使い心地が変わるんですね。
今回、ご希望でお名前や身長、体重など刻印を打って頂けるとか。
最近はレーザー刻印なども出ていますが、坂さんの刻印は?
坂
赤い方が1mmサイズ、白い方が1.5mmです。
スプーンの刻印は最後に、1文字1文字打っていきます。
日光の光がやっぱり見やすいので、昼間に作業するようにしているんです。
間違うと作り直しになっちゃうんで、刻印をいれるのはドキドキしちゃいます。
石井
間違ったらそのスプーンは作り直しですか?
CとGとか9と6とか危ないですね。
今回は名前だけではないですし、文字数も多いので大変ですね。
坂
記念ですし、長く使っていただきたいのでがんばります(笑)
石井
このスプーンの部分ですが、見ていたら簪(かんざし)になるなと思いました。
坂
実はそれも思ったんですが、お客様が混乱しちゃうかなと思って。
石井
ということは、手にした方しだいでお好きなようにどんどん使ってくださいということですね。
坂
はい、シルバーですし毎日使ってもらえたら嬉しいです。
石井
スプーンは銀製ですね。
作品はいろんな素材を使われていますが、シルバーがお好きですか?
坂
好きですね。
なにかしっくりくるというのか、柔らかさとか。マニアックなんですけど。
石井
マニアックな部分を教えてください(笑)
坂
金だと硬すぎるし、プラチナは削っていてザラザラするんです。
銀はなんというか、スムーズにいく感じ、作ってて作りやすいというのもありますし。
自分でも銀製のものを身につけているんですが、着けていると自分に馴染んでくる感じが好きなんですね、きっと。
石井
着けていると自分に馴染む?
坂
こう、角が取れてきて、傷もついてくるんだけど、それがその人のものになっていくみたいな。
どっちかというと、味があるものが好きなので。
買っていただいた方にもどんどん使ってもらいたいと思ってます。
お出かけ用とかじゃなくて、毎日ずっと使ってもらいたいな。
石井
スプーンを拝見して思ったんですが、手で持つ部分がまっすぐですね。
有名ブランドのバースディスプーンを何度か買ったことがあるのですが、まっすぐだと厚みがあったり、他はもっと丸みがあったり。
坂さんのスプーンは、厚すぎないので適度なしなりがありますね。
持っていても銀の柔らかさを感じられる。
子供がもっても重すぎず使いやすいなと思いました。
坂
お食い初めなどの行事だけじゃなく、普段も使ってもらいたいんです。
石井
見えないところまで気配りされていますね。
毎日使うということは、お手入れはどうしたらいいでしょう?
坂
アクセサリーもそうなんですけれど。
毎日使っていただいて、使った後は金たわしではなく普通のスポンジと中性洗剤で洗っていただければ大丈夫です。
しばらく置いておくと黒っぽくなっちゃうんで、そのときは重曹を使ってください。
重曹に少しのお水を加えてペースト状にします。
それを歯ブラシに着けて直接磨いていただくと、きれいにとれます。
それでもとれない頑固な黒ずみの場合は、専用の液剤や研磨剤などが必要ですが、ほとんど重曹で大丈夫です。
石井
専用の液剤とかいらないのですね。
重曹ペースト聞いたことがあります、キッチンのお掃除とかでも使ってきれいになると(笑)
坂
後は濡れたままにしない。
水気をしっかり拭き取ってください。
保管場所など、すっごく日当たりの良いところは避けてください。
温度が上がると変色しやすくなります。
しまい込んだり、飾っておくと黒くなりますから、毎日使っていただくのが一番のお手入れになると思います。
石井
使うのがお手入れになるっていいですね。
坂
ぜひぜひ使ってください。
石井
普段はどんな感じで制作されているんですか?
坂
週2回講師をしていますが、それ以外は寝る時間とご飯を食べる以外はずっと・・・。
石井
ずっと作ってらっしゃる?
坂
あ、もちろん音楽を聴いたり、時々映画にいったりとかしますが、頭の中はこのことを考えています。
ずーっと。
石井
そのアイデアは何かまとめられていますか?
坂
クロッキー帳が山ほどいっぱいあって。
アイデアスケッチをぱあっと描いてます。
作る時は、そこから実際の大きさで下絵を別に書いて、必要な時にはPCに取り込んで作り直したりして進めます。
スプーンも以前のクロッキー帳にいっぱい書いてました。
年ごとにまとめてて、これは2013年ので、あー小学生みたいで恥ずかしい!
石井
まさに坂さんの頭の中のものが、ここにストックされているんですね。
これは宝の山!大切なものを拝見してすみません。
坂
絵が下手なんです。
谷中の先生から字も絵もへたくそっていわれて。
絵が描けないと作れないんだから彫金辞めて2,3年絵の勉強しなさいっていわれて。
一瞬やろうかなと思ったんですけど、全部やめて絵をやる勇気がいるなと思って、自主トレしています。
石井
字といえば、お習字は1年間習われたんですよね。
坂
はい。少しはましになったかなと思いますが。
石井
絵は自主トレで(笑)、彫金で作る方が楽しいですよね。
それにしても、習うとか学ぶことはお好きですね。
坂
そうですね。
8月に20日間ほどアメリカに行って、クラフト学校の短期研修を受けてきます。
ダメモトだったのですが、奨学金をいただける事になって・・・。
石井
ラッキーですね。
学び続けるってなかなかできない事だと思うんですが、好きなことだからかもしれませんね。
彫ることが大好きといわれていましたが、作品としてはどういったものがお好きですか。
坂
毎日使ってもらえる、身につけるものが多いです・・・。
他にも彫金額というのがあって、銅板に筆で下絵を描いて、鏨で彫っていく作品があります。
少し前、龍と鷹の絵の依頼をいただいたんですが、こういう彫るのが大好きなんです。
一日中彫ってたいくらい。
石井
龍と鷹だと、鱗とか羽の表情がありますが、それ1本1本を彫るんですか?
坂
はい、楽しいんです。
線の太さもいろいろ必要なので、鏨の幅を変えて彫りますね。
石井
鏨も荒らしにつかう模様のものだけじゃなく、彫るための刃になったものも鏨で、本当に種類が多いんですね。
坂
だから、作りたくなったら作れるようにストックもしています。
石井
うわーいっぱい!
鏨だけじゃなく、ヤスリや他にもたくさんあります。
満足のいく作品を作ろうと思ったら、道具も増えて当たり前なんですね。
坂
先生からもいわれたんですけど、1回しか使わなくても、それがないとちゃんとできないんだったら作った方が早い。
できなくてかかる時間がばかばかしいから作りなさいと。
石井
鏨を始め、道具はどんどん増えますね。
坂
どんどん増えていくんですよ。
石井
坂さんなんだか楽しそう(笑)
彫金額や道具を拝見していると、彫金の魅力を改めて感じますね。
ただ、彫金額はそれ自体知らない人が多いかもしれません。
坂
本当はもっとやりたいんですが、需要がないみたいで。
石井
日本の技術ですし、広めたいですね。
お花の帯留めは鋳造ですか?
坂
大きなものがラナンキュラスで、こちらは特定の種類はないのですが、お花。
どちらも1枚の板から作りました。
石井
黄色い部分の素材はなんですか?
坂
金です。
作品によって真鍮や銅も使いますが、この二つは金属アレルギーが出やすいものなので、裏はシルバーにしたり。
リングもオーダー以外はシルバーが多いです。
石井
いろんなこだわりをお聞きしたら、あれもこれも欲しくなってしまいました(笑)
七宝の作品なども、斬新でイメージが変わりますね。
今、新たに取り組みたい作品はありますか?
坂
11月に個展があるので、ちょうどそれに向けていろいろ考えているところです。
石井
それは楽しみですね、アメリカで吸収されるものもあるでしょうし、ぜひ伺いたいと思います!
今日は、ありがとうございました。
取材日:2014年6月12日
取材場所:坂さんの工房
いかがでしたか?
FMラジオのBGMに、猫がすやすやと眠る工房は、すっきり整頓されながらも、木のぬくもりやどこか懐かしさを感じさせてくれました。
ふと見ると、岡本太郎やロック関係のグッズや本・CDがあったり。
彫金師とは思えない線の細い雰囲気から、張りのあるコロコロと軽快な明るい声がとっても印象的でした。
ここだけ時間がゆったり流れているような優しい空間でお話を伺うことができました。
なお、坂さんの銀細工は、手しごと本舗(楽天市場)でご購入いただけます。
(2014/6/18 編集長・おかざき)