◆清水久雄
昭和39年東京都生まれ。
インターナショナルスクールから、建築を学ぶためにWashington State University入学、2年後Rhode Island School of Designへ転入し建築を修得。
その後Columbia Universityで都市デザインにて修士課程修了。
卒業後Caliandro Associateに入社し、横浜MM21の外構設計に関わる。
帰国後、大手建築会社、建築設計事務所に勤務。
ネット社会を意識しCG制作、WEB制作会社に従事する一方、ずっと好きだった木工の学校に通い技術を修得し、2013年4月KAMAKURA TERRACEを設立する。
「繊細で機能的ながら、シンプルで長く使える家具や雑貨を丁寧にデザイン・制作する」というコンセプトの元、尽きないアイデアを駆使した新しいのにどこか懐かしい作品を生み出している。
写真の方が、鎌倉在住・木工作家の清水さんです。
清水さんとの出会いは、「積み木」でした。
今まで見たことのない「やさしい雰囲気の積み木」を見て魅了され、積み木へのこだわりをお伺いしてさらに感動し・・・そんな感じでした。
今回は、積み木のことや手しごと本舗オリジナルとして新たに作っていただいた木製のミニカーのことなど、たっぷりとお伺いしてきましたので、ぜひご覧ください。
インタビュアーは、日本の手仕事や職人さんが大好きな石井さんです。
物静かで控えめなやさしい雰囲気の清水さん。
質問にも一つひとつ丁寧に、考えながら答えていただきました。
石井
現在木工作家でいらっしゃいますが、プロフィールを拝見し、これまでのご経歴にとても興味が湧いてしまいました。
大学では建築を学ばれていますね。
清水
小さい頃から、創造して作ることが好きでした。
たぶん小学校6年くらいの時には、建築とかそういった方向に進みたいと思っていました。
石井
創造して作る・・・具体的には、どんなものがありました?
清水
絵を描いたり、あとはプラモデル。
最初はセットされているものをそのまま作っていましたが、だんだん物足りなくなって、組み合わせるようになりました。
石井
ご自身でオリジナルのプラモデルを作るようになった。
清水
ちょうどスターウォーズがヒットした頃で、戦闘的なカッコイイデザインが好きでしたね。
船と飛行機のパーツを組み合わせて、色も塗っていろいろ作りました。
石井
スターウォーズは人気でしたね。
プラモデルは立体ですし、骨組みとか構造がわかります。
清水
造形的なものに興味があって・・・ですね(笑)
石井
建築を学ぶために、アメリカの大学に進学されたんですよね。
3つの大学を経験されている方は、少ないように思います。
清水
Washington State Universityは、当初イメージしていたものとはちょっと違っていたので、教養科目を修了後、Rhode Island School of Designへ転入しました。
そこで3年間学び、美大でしたので建築はもちろんですが、デザインや芸術関係の科目も取れたんです。
うまく利用して面白そうなもの、鋳造などもやりました。
石井
楽しそうですね。
その後、Columbia Universityへ。
清水
当時の学部長が建築業界では名の知れた方だったので、ハーバードかコロンビアに行く人が多かったんです。
迷いましたが、当時都市計画に興味がありニューヨークは大都市、また建築関連の蔵書・資料などがインデックスされていて、世界でトップクラスなので選びました。
石井
なるほど、興味のある方をしっかり選ばれていますね。
Master of Science in Architecture and Urban Design修得というと、マスターですからいわば大学院の修士課程ですか?
清水
建築は当時、博士課程は無かったです。
石井
もしあれば、進まれたような気がします(笑)
卒業後は、建築のお仕事に就かれたんですね。
ニューヨークCaliandro Associateに入り、MM21という都市計画に関わられていた?
清水
Caliandro Associateというのは、大学の教授がやっていた会社です。
MM21は横浜の・・・。
石井
もしかして、横浜のみなとみらい21ですか?
清水
そうです。
丁度MM21の設計をしていたので。
国際会議場、国際展示場、ホテル、会議施設、海側への公園があって、その一体の都市設計のデザインのメンバーに入れてもらっていました。
石井
そんな大規模な設計デザインとはすごいですね。
その後、日本の大手建設会社・日建設計に入られていますが、MM21の関係ですか?
清水
日本に帰らなくてはいけなくなって。
プロジェクトも途中だったので、同時に関わらせてもらいました。
石井
日建設計の後、建築設計事務所に移られていらっしゃいますね。
清水
都市計画などプロジェクトが大きくなると、どうしても部分部分の設計になってしまいますが、もっとトータル的にやってみたくなったんです。
当時は建築家になりたいと思っていたので、小さな家から会社ビル、マンションなどすべて自分で設計し、1からやらせてもらいました。
石井
すべて自分でデザイン・設計したものが建ち上がる、また違った面白さがありますね。
この後、建築とは違った業界に進まれますね。
清水
社会状況や経済環境の変化があります。
この頃、インターネットが登場していました。
大学時代CG制作をかじっていたこともあり、CMなどの広告企画を手伝うことになりました。
そして、次はWEB制作会社と御縁があり、WEBサイトの企画・制作もやっていました。
石井
多才な経歴です。
木工作家になろうと思われたきっかけは何だったんですか?
清水
結局、自分で何か作らないと気がすまない質なんです。
建築設計事務所にいた頃から、何か自分でやりたいなとはずっと思っていました。
そのまま建築の仕事を続けていたとしても、設計だけの仕事はやっていないと思います。
たぶん、自分で実際に家を建てたりしていたかもしれませんね。
石井
建築家の方の中には、施工段階である程度業者に任せるタイプと、細かく打ち合わせしチェックしたりこだわるタイプがいらっしゃると聞いたことがありますが、清水さんはどちらのタイプですか?
清水
こだわるタイプですね。
設計するときも、まねではなく自分だったらもっとこうしようとか考えます。
石井
そのこだわりが、「木工」に向かわれたのはなぜでしょう?
清水
好きなんでしょうね、自然が・・・アウトドア的な面が。
実は建築デザインするにあたっては、必ず木を入れようと思っていました。
当時のデザインは、木を入れない方向が多かったんですが。
父が土いじりが好きで、なんとなくそれが自然と身についているのかもしれません。
石井
当時のデザインといえば、コンクリートの打ちっ放しとか、自然よりは人工的なイメージが多かったですね。
清水
やっぱり、昔から木が好きなんでしょうね。
建築事務所に勤めていたときも、木の家具やインテリアなどは見ていましたが、職種的に見るというよりは、好きで見ていましたね。
だから先々、木で何かを作ろう、そんな仕事をしようとなんとなく思っていたかな。
石井
確かに、仕事として見ることと好きで見ることは、根本的に違いますね。
清水
CG制作の仕事をしていた時に、指物(さしもの)の勉強に通いました。
石井
指物というと、板材を組み立てて木製品を作る、正倉院の木工にも使われる日本の伝統技術ですね。
どのくらい通われたのですか?
清水
仕事の関係で半年くらいでした。
面白かったので、もっと通いたかったんですが・・。
指物は、工具類はあまり使わずかんなや鋸がほとんどなので、生産性は悪いんですが基本中の基本です。
かんなも難しくて、刃の研ぎからやります。
研ぎ3年というんですね。
砥石も、砥石を研ぐ砥石がありますから。
石井
刃を研ぐと、砥石は確かにへこみます。
へこんだ砥石を整える砥石ですか?
清水
そうなんです。
奥深くて面白い。
やっているときは、大工になりたかったなと思いました。
石井
奥深すぎます(笑)
家具デザイン研究所というところでも勉強されていますね。
清水
WEB制作をやっていた頃です。
この時には、すでに独立を考えていました。
工具の扱いなどは、大学時代習っていましたが、自己流の部分があるだろうと。
家具の構造などを確認する、基礎を改めて学ぶために講座を受けました。
石井
それにしても、短い期間で身に付けるというのはすごいですね。
清水
木工の場合、構造や基本が分かれば、後はそれぞれ経験を積みながら深めていく世界だといえます。
石井
昨年の4月に、木工作家として独立されました。
清水
年齢もありますね。
定年退職後に進むという方法もあるんでしょうが、私は仕事として作家として取り組みたかった。
石井
清水さんが作る家具・雑貨のこだわりを教えてください。
清水
繊細でやさしく、機能的でいて飽きの来ないシンプルなデザインの雑貨や家具を作りたいと思っています。
天然素材、無垢の木を使い、仕上げも蜜蝋や天然オイルなどにこだわっています。
ゆくゆくは家具的なものを考えているのですが、まずは小物からやっています。
小物って作っていると、奥の深さを感じています。
やること、やれることが多いんです。
石井
WEBサイトを拝見すると、文庫本専用本立てやiPadスタンドなど、今まで無かったものやスタイリッシュなものも多いですね。
清水
設立当初は、大人向けの作品でカッコイイもの、あまり見たことがないものを作っていました。
自分だったらどう作るかというところから掘り下げて、丸くしたり高さを変えたり太く、または細くしたりすることでデザインにつながっていく感じです。
石井
最初に作られたのは、どのアイテムですか?
清水
本立てですね、文庫本専用なんですが。
片側で本を立てて、上の一部を引き抜くと薄い板みたいなものがくっついていて栞(しおり)になるんです。
石井
面白いですね。
その発想はどこからくるんですか。
清水
基本は本立てなんです。
まず、私が本立てを作るならどうしようかと考える。
例えば、文庫本専用の本立てを作ろうとすると・・・
1、2冊置くだけのものってないな。
だったら、栞があったらいいな。
ベッドサイドに置けたらいいな。
だったら、自然の木で作ると安らぐな。
こんな感じですね。
石井
なるほど、論理的に構造を整理し、製品コンセプトをまとめていく感じですね。
手しごと本舗との出会いのきっかけが「積み木」だったと聞いたんですが、子供用のものを作ろうと思ったきっかけは何だったんですか。
清水
いろいろ作ってやっていく中で、自分の作るものに合うものはどのマーケットかなと考えてみたり。
すると、子供向けのものというのは一番難しいなと。
子供のものって、小さい子が初めて見るもの触れるものになりますよね。
その時には、出来るだけ良いものを与えた方がいい。
ただ良いだけじゃなくて、安全であることも大事だし、作りあげるハードルが高いものです。
そこに私なりのカッコよく見せたいというのがあって、結構チャレンジなんです。
そこで、積み木を作ってみようと思ったんです。
石井
子供向けのものの安全性は大切です。
一方で短期間での使用前提なので、細部へのこだわりが見えづらい製品が多いかもしれませんね。
清水
積み木の場合、箱に収納出来るものがほとんどですが、箱にきっちりと入ってしまうと取り出しにくいだろうと思い、こんなふうに箱を低くすることで取り出しやすく、同時に収納しやすいんじゃないかと思ったんです。
それに角張っているものが多く、ここまで滑らかな丸みを持ったものは見たことがなかったのでやってみたくなりました。
石井
なるほど、これだとこの箱の中で組み立てて飾っておけたりもしますね。
素材は何ですか?
清水
これはメープルを使っています、無垢で。
メープルシロップが採れる木です。
塗装はしていませんので、小さなお子さんが舐めても大丈夫です。
石井
無垢なので適度な重さもありますし、触っていると心地いい。
また面によって年輪の見え方も違うので、模様みたいです。
箱も美しいので、そのまま飾ってもいいですね。
ちなみにこの積み木セットですと、どのくらいの制作期間がかかりますか?
清水
実は、ちょっとしたことなんですが、工程が多くて。
早くて2週間くらいです。
石井
ちょっとしたこと?
清水
積み木の角を丸くするのも大変なんですが、箱の内側の角を積み木にあわせて丸く削っていく、カーブを付けるというのも実は大変なんです。
ちょっとだけ丸くするだけなら、それらしくは見えるんですけど。
石井
積み木を収めた時に、隙間がどう空くかで、全体の美しさが変わってくるということですね。
確かに、隙間が空いていると想像すると、この一体感はなくなります。
清水
イタリアの家具に、見た目がすごく真四角なテーブルなのに、どこか人間味を感じるものがあったんです。
どうなっているんだろうと見ると、ほんの1mmか2mmの世界だと思うんですが、よく見ると上から下にいくにしたがって細くなっているんです。
石井
わずか1~2mmの差?
清水
建築もそうなんですけれど。
例えば、大学には広場がありますね。
奥にいくつかの校舎がある。
広場からまっすぐ校舎に向けて道があって大抵まっすぐ作っているんですが、人は真っ直ぐ歩かないんです。
ちょっとよろけていたりクセがあったり、本人は気づいていないんですが。
だからあえてカーブをつけた方が歩きやすいし、デザインにもなるんです。
石井
ウォーキングとかラインに沿って真っ直ぐに歩けといわれても確かに歩けない。
自然を思い浮かべても何一つ真っ直ぐなものってないですね、植物も、動物も、人間も。
清水
そうなんです。自然界には無いんです。
曲線しかないのに、すごく整っている。
不思議なくらい。
デザイン的にも、そういうものの方がしっくりくるのかなと思っています。
石井
曲線、カーブ。
清水さんのこだわりの一つですね。
石井
作品デザインのお話になると目がキラキラ輝いて、本当にお好きなんだなと実感します。
今これが作りたい!というものはありますか?
清水
もう、いっぱいあるんです(笑)
学生時代からそうなんですが、いつもノートを持ち歩いてメモしているんです。
石井
絵がたくさん書かれていますね。
清水
これはマガジンラック。
マガジンラックってスリッパを立てるようなものだったり、きちんとデザインされたものが少ないんです。
もっとこんな風に出来るんじゃないかとか。
ふっと思いついた時にすぐに書きます。
書かないと忘れちゃうんで。
歩いていても立ち止まって書きます。
石井
学生時代からだと何十冊あるでしょうね。
過去のノートもご覧になりますか?
清水
新しいアイデアが浮かばないときもありますから、過去のノートは見ます。
こんなことを考えていたんだというのを見て、そこから新たなアイデアが生まれて発展することもあるんです。
石井
救急車や消防車、パトカーの緊急車両は、今回新たに作ったとお聞きしました。
アイデアはお持ちだったんですか?
清水
いえ、緊急車両は、全く一からのスタートでした。
石井
最終的なデザインが決まるまで、何度もやり直したそうですね。
清水
おかげで、本当に良いものが出来たと思います。
自分だけで作るよりも、チームで作った方が絶対良いものが出来るんです。
何でもそうだと思いますね。
石井
よく見ると、緊急車両もすべて曲線で出来ています。
柔らかくて優しい印象になっていて、つい触りたくなりますね。
この赤い木の部分は、仕上げの色を付けるのですか?
清水
パドックという木の色のままです。
石井
自然な木の色を生かすあたりも、やっぱり妥協はしていませんね。
清水
子供のものは、貰うときは1、2歳です。
ずっと持っていてくれて、大きくなったらリビングにインテリアとして置いたり、自分の子供が出来たときに使わせたり、それぞれ思い出としてとっておけるものだと思います。
石井
思い出をとっておく。
清水
ずっと持っていられるもの、飾っておけるものというのはカッコイイものだと思うんです。
シンプルで飽きが来ない、作りもしっかりしたものなら残せる。
石井
清水さんの作品に共通するテーマですね。
他には、どんな作品に向かわれますか?
清水
ゆくゆくは、家具のバリエーションを広げていきたいと思っています。
手作りですから、お客さまにあわせた高さやサイズも変更可能ですし、クッション部分を取り替えたり、修理をしていくことで使っていただける家具づくり。
椅子だけでなくテーブルなども、シンプルで飽きの来ない、長年使えるデザインのものを作っていきたいです。
石井
ところで、鎌倉にはお住まいになってどのくらいですか?
清水
10年ほどです。
前は藤沢ですが、海が近く自然が多く毎日触れていると違います。
鎌倉に住んで、犬を飼うようになりました。
保健所で捕まった犬を保護する施設があり、そこで譲り受けました。
見た目がリサとガスパール(※)のリサに似ていることから、「リサ」と名付けて。
毎日散歩に連れて歩くのが、いい気分転換です。
本当は、リサのための犬小屋を造りたいんですが、そこまで手が回っていないんです(笑)
※フランスの絵本作品のシリーズ名。ウサギでもイヌでもない未知の生物「リサ」と「ガスパール」の物語です。
石井
鎌倉という土地で、自然に囲まれ、愛する奥様や愛犬リサと過ごしながら作品を生み出す。
清水さんの多くの経験から生まれるこだわりのバランスが、美しさに通じ、シンプルに通じ、長く使えるものになるのではないかと思いました。
そんな雑貨や家具が家の中にあることで、まるでテラスにいるようなほっと優しい気持ちにしてくれそうです。
取材日:2014年2月13日
取材場所:神奈川県逗子市「なぎさ橋珈琲」
いかがでしたか?
取材場所は、鎌倉からちょっと離れた「なぎさ橋珈琲」という珈琲ショップ。
テラスに出ると、遠くに江の島が見えました。
目の前に広がる逗子海岸には、ウインドサーフィンのヨットがいっぱい。
サザンの世界が広がっていました。
なお、清水さんの木のおもちゃは、手しごと本舗(楽天市場)で、ご購入いただけます。
(2014/2/19 編集長・おかざき)