◆黒澤秀行
大東寝具工業株式会社営業部部長。
昭和44年京都府生まれ。
趣味は防波堤での海釣り。
休日には、太刀魚(たちうお)やキスを釣って夕食のおかずにすることも。
写真の方が、京都にお住いの和晒(わざらし)ガーゼの達人・黒澤さんです。
今回は、洗うほどに風合いが増す和晒ガーゼのことや製法へのこだわりなどについて、たっぷりとお話をお伺いしてきましたので、ぜひご覧ください。
インタビュアーは、5歳の女の子を持つママさん編集者・峰岸さんです。
社内規定があり、顔を出すことができないそうで、本当に残念です。
くまモンのような、とても愛らしいお顔なんですよ!
黒澤
整理整頓してない工場ですいません。
峰岸
この木の床が歴史を感じるというか、趣があっていいですね。
黒澤
昔は100人くらいの人がいたんですよ。
ほとんど手作業ですしね。
峰岸
ひとつひとつ丁寧に作っていらっしゃるんですね。
黒澤さんの会社の和晒ガーゼは、洗うほどに風合いがよくなるということなんですが、その秘密を教えていただけますか?
黒澤
ガーゼを作るにあたっては、特に和晒という製法にこだわって開発したんです。
一般的な製法を洋晒といいますが、洋晒と比べるとやっぱり繊維の質が全く違ってくるんです。
峰岸
繊維の質ですか。
黒澤
ええ。
ガーゼは風合いがわかりやすいですしね。
峰岸
和晒というのは、どんなものなんでしょうか?
黒澤
和晒というのは、日本で昔から行われていた晒しのやり方の一つなんです。
どんな生地でも、精練(※)の工程で、生地本来の汚れを落とすために、晒しの工程は必ず通るんですよ。
よく川に生地を晒したりとか、テレビで見たことあるでしょう?
あれも晒しのやり方の一つです。
※天然繊維から不純物を取り除くことです。
峰岸
一般的な工程とどんな違いがあるんですか?
黒澤
釜炊きであったり、晒しの作業をすべて職人の手作業で行うことです。
峰岸
釜で炊くんですか?
黒澤
ええ。
その釜もだんだん減ってきてます。
今は日本に数個しかないと思います。
峰岸
そんなに少ないんですか。
黒澤
今では、釜炊きをできる人もいないですしね。
それに、すごい重労働なんです。
洋晒の場合は、機械のローラーで引っ張りながらやるんですけど、40分くらいでできちゃう。
でも、和晒だと、釜炊き、生地の脱水、自然乾燥とかもすべて手作業で4日間もかかります。
峰岸
40分と4日間ですか。
かかる時間も手間も全然違うんですね。
自然乾燥というと、お天気にも左右されますね。
黒澤
そうなんです。
できる時とできない時があります。
でも、手間暇かけることで、生地にダメージがかからず、繊維の断面が丸いままに保たれるんです。
だから洗えば洗うほど、風合いがよくなるんです。
峰岸
繊維も本来の元気なままということなんですね。
黒澤
そうです。
繊維の断面が丸いままなので、生地の密度が高くなるんです。
峰岸
どれも、3重や5重にガーゼを重ねてありますね。
重ねることにもこだわりがあるんですか?
黒澤
はい。
普通の2重や3重に重ねてあるガーゼというのは、生地を織り上げる際に、生地がずれないように糸で留めてあるんです。
これを、点結(てんけつ)といいます。
峰岸
ところどころ留めて、縫うときにずれないようにするってことでしょうか?
黒澤
そうです。
峰岸
点々とガーゼを留めてあるところが、生地のいろんなところにあるってことですか?
子供のおけいこバックに使うような、キルティング生地みたいな感じでしょうか?
黒澤
いやいや。
キルティング生地みたいに、そこまでミシンで縫ってあるわけではないんです。
少しずつですけど、糸で点々と留めてあるんです。
生地を上と下とに引っぱったらわかります。
ところどころが、くっついているんです。
峰岸
そうなんですか。
それが、一般的な2重や3重に重ねてあるガーゼなんですね?
黒澤
はい。
普通は点結された状態で、2重ガーゼ、3重ガーゼという生地で売り出されているんです。
でも、うちの製品は点結をせず、ガーゼ1枚1枚を職人さんに手作業で合わせて重ねてもらって、それを縫製してもらっています。
峰岸
すべて職人さんの手仕事なんですか。
黒澤
そうです。
パーツごとに切ったものを、手で重ねるんです。
だから、生地の空気層が、普通の点結されたガーゼよりも大きくなるんです。
峰岸
その空気層が柔らかい風合いを生むんですね。
黒澤
和晒をして出来上がったガーゼ生地は、点結をせず、1枚1枚パーツごとに切ったものを手で重ね合わせて、ミシンを踏んで縫製する。
もちろん、縫製の方も手作業です。
峰岸
晒しの工程も縫製も、ものすごい手間をかけて作っているんですね。
ガーゼは、もちろん綿100%ですよね?
黒澤
ええ。
うちのガーゼ製品は、ノーホルマリンの検査をパスしています。
峰岸
赤ちゃんや肌の弱い方でも安心ですね。
峰岸
昔から子供にガーゼが良い、と言われてますが、ガーゼが肌に優しいからなんでしょうか?
黒澤
そうですね。
オギャーと生まれてから最初に包まれるのが、ガーゼですからね。
安心して使っていただけるというのはあると思います。
それに、洗えば洗うほど、ふんわりと風合いが増していくんです。
峰岸
そうなんですか?
風合いが増していくってすごいですね。
よく昔ながらの布オムツも、何度も洗濯を重ねてきてクタクタになったものが一番いいと言われますが、それと似ていますね。
黒澤
そうですね。
一般的な洋晒ガーゼというのは、機械で引っ張りながら晒してあるので、和晒ガーゼと違って、繊維にテンションがかかってつぶれちゃってるから、洗うほどにふんわりとはしないんです。
今は、機械晒しのガーゼがほとんどですね。
やはり、コストパフォーマンスがいいからでしょうね。
峰岸
先ほどおっしゃっていた「洗うほどに風合いが増す」というのは、和晒だと繊維がつぶれていないから、ということなんですけど、これはだんだん柔らかくなるということですか?
黒澤
そうですね。
洗えば洗うほど、柔らかい風合いは増していきますね。
まず最初の洗濯で糊(のり)が落ちます。
峰岸
糊ですか?
どんな糊を使ってるんですか?
黒澤
はい、化学薬品ではなく、沖縄のでんぷん糊を使用しています。
縫製するには生地に張りを持たせないといけないので、どうしても最初に糊付けが必要になるんです。
でも、化学薬品は極力使いたくないので、探しに探して沖縄のでんぷん糊を使っています。
峰岸
仕上げの糊にまでこだわっていらっしゃるんですね。
黒澤
化学薬品なら入手しやすいですが、やっぱりその辺で妥協しちゃうと、結局、普通のガーゼと同じになってしまいますからね。
化学薬品は極力少ない状態で仕上げています。
峰岸
赤ちゃんは、何でも口に入れちゃいますもんね。
峰岸
ガーゼというと、風通しがよく涼しい、夏に使うものという印象がありますが。
黒澤
夏はもちろん風通しもよく涼しいですね。
それに吸水性も高いので、汗を吸収しやすいです。
峰岸
逆に、冬はどうですか?
黒澤
うちの和晒ガーゼは、3重や5重に重ねていますが、この重ねで空気層が増すので、冬でも保温力も高いから暖かいんですよ。
3重重ねのベビーローブにも、ある程度の保温力があります。
峰岸
実は、娘用にケットを使っているんです。
最近寒くなってきましたが、ケットだけかけて寝ていても、汗をかいていることがありますね。
黒澤
ガーゼなんですけど、結構、保温力があるんですよ。
これが重ねていない1枚もののガーゼです。
峰岸
ずいぶんと薄いんですね。
1枚だと透けてしまうくらいですね。
黒澤
夏は涼しく、冬は暖かいんです。
それに、吸水・発散性に優れていますので、水分を吸い取ったあとも、渇きやすいです。
峰岸
渇きやすいっていうのは、いいですね。
汗っかきの赤ちゃんにはもってこいですね。
黒澤
日本の昔ながらの製法でこれだけこだわったガーゼを作っていただいているわけですけど、もうその釜が少ないといことで、ちょっと危機感を感じます。
こだわって製品作りをするところが減ってきているのと、安価で手に入る製品ばかりが求められるようになってきているように感じますね。
そろそろモノの良さを一から見直さないと、昔ながらの本当に良い製品・本物の製品というのは、どんどん減っていってしまうかもしれません。
峰岸
そうですね。
日本にはたくさん良いものがありますからね。
黒澤
縫製にしても、ほとんど手作業で手間をかけてもらっていますが、こういう面倒くさい縫製をやってくれる工場もどんどん減ってきています。
峰岸
こんなに手間をかけて作られているとは驚きでした。
安いからと、何でも機械製品で事足りてしまうというのも、なんかさみしいですね。
でも親としてはやっぱり、大切な赤ちゃんには、国内で丁寧に手をかけて大切に作られたものを使ってあげたいな、と思います。
取材日:2013年10月22日
取材場所:京都府
いかがでしたか?
この日は、取材スタッフのスケジュールの都合で、京都滞在時間がわずか2時間という強行軍でした。
そんな中、分かりやすく和晒のことを話してくれた黒澤さんや実際に縫製をしているところを写真に撮らせてくれた工場の方々に感謝です。
なお、黒澤さんの和晒ガーゼは、11月20日から手しごと本舗(楽天市場)で、ご購入いただけます。
(2013/11/5 編集長・おかざき)