◆清水敬一郎
有限会社清秀代表。
人形づくりの父の元に生まれながらも、方向性の違いから25歳の時に独立。
時代をみながら常に新しいものを追求し、五月人形のジャンルに着用兜飾りのブームを生み出した一人。
現在54歳、日々の生活すべてに兜のアイデアがあるという。
そんな感性が続く限り、新しい清秀兜が生まれ続けるに違いない。
写真の方が、兜職人(甲冑師/かっちゅうし)の清水さんです。
今回は、兜を作り始めたきっかけや兜へのこだわりなどについて、たっぷりとお話をお伺いしてきましたので、ぜひご覧ください。
インタビュアーは、日本の手仕事や職人さんが大好きな石井さんです。
石井
今日は端午の節句(こどもの日)には欠かせない「兜(かぶと)飾り」のお話をお聞かせください。
よろしくお願いします。
清水
元々は、戦国時代の武家衆が、武士にとって大事な鎧(よろい)や兜、刀などの武具を飾って、立身出世などを願う儀式があったそうです。
江戸時代になると、町人たちも男の子が生まれると武家にあやかり、同じように飾って健やかな成長を祝うようになったと聞いています。
石井
端午の節句は男の子のものだから、成長だけでなく、立身出世の願いなども込められたんですね。
清水さんの家は、代々兜飾りを作られているんですか?
清水
いいえ。
実は、清秀は自分がつくった会社なんです。
石井
というと、創業者・初代でいらっしゃる?
こういった業界ですと珍しいですね。
清水
親父が人形を作ってたんです。
童人形や舞踊人形といわれるものですね。
「脇役」の人形になります。
石井
脇役ですか。
清水
人形の中でも、節句に飾るものでセットの真ん中にある人形や飾りは、主役というか中心になるものです。
でも、その脇に飾られるものや、節句とは関係のない舞踊人形などのことを、脇役商品と言うんです。
石井
確かに節句の人形は、どこのご家庭も子供が生まれると、1つは用意するものですよね。
お父様はそういった主役の人形ではなく、脇役の人形をお作りだった。
清水
親を手伝って脇役商品だけを作っていても、先々生き残れるのか疑問をもっていました。
そんな時、業界のことを学ばなければと思い、2年ほど人形製造と問屋をやっている会社に入ったんです。
石井
修業なさったわけですね。
清水
そこでは「子供大将」という、鎧兜を着た人形をやってました。
まさに、主役となる商品です。
それをやりたくって、25歳の時に独立しました。
石井
25歳で独立とはお若いですね。
当時は独身ですか?
清水
いや、結婚もして子供もいました。
妻からは、独立は辞めてくれと止められました。
収入が不安定ですから。
石井
一世一代、男の決断ですね。
清水
最初は、自宅の8畳一間から始めて。
自分一人で子供大将を作ったことは無かったので、他の商品を分解して、見よう見まねで作ってました。
石井
他の商品の構造を見て自分で作ることが、一番商品を理解できますね。
自分の商品の特長づくりの参考にもなりますし。
清水
見栄えが良い物を作りたいと、それだけを思ってやってました。
お祝いのものですから。
石井
でも、注文を貰うのって大変だったんじゃないですか?
清水
親父が人形屋だったので、安くて良い物を作っていると、業界の人から自然と注文をもらいましたね。
最初の頃、200体の注文をもらって・・。
作ったこともないのにできますと言っちゃって、全部一人で作り上げたこともありました。
石井
作るには、材料などの仕入れが必要ですよね。
それはどうされたんですか?
清水
会社に勤めた時に貯めた100万円を元手にして、型代(かただい)にあてました。
石井
型代というのは、人形や小物をつくる時の元々の型ですね。
型代には、かなり費用がかかると聞いています。
清水
最初は、修業した会社が業務縮小で作らなくなった型を、安く譲ってくれたりしました。
お金がない時ですから、ありがたかったですね。
石井
チャンスとタイミングがしっかり合ってますね。
清水
数年経つと、安くていい子供大将を作っているという噂が問屋さんに広まって、仕事が安定するようになりました。
石井
兜飾りは、いつ頃から始めたんですか?
清水
兜飾りは、独立して3、4年後くらいですね。
兜自体は、子供大将で作ってましたから。
たまたま兜飾りも作ってよ、ってことになったんです。
最初は、ケースに入る小さい兜飾りからスタートしました。
石井
確かに、子供大将も兜をかぶったり手に持ったりしてますね。
清水
でも数を作っていくと、問屋さんにもっと違うものは無いかと言われるんです。
石井
独自性のある兜飾りが欲しいんですね。
清水
「自分のオリジナル」というのを作っていかなきゃいけないんだと思いました。
そこで、毎年新しい型を考えて、新しい兜を作っていったんです。
石井
毎年ですか?
清水
毎年です。
そのおかげで、毎年うちの兜を待ってくれるようになりました。
問屋さんに「来年はどうするの?」と聞かれ、「こう考えてます」というと、採用してくれるんです。
石井
問屋さんも新しい物を求めていらっしゃるんですね。
そうして、子供大将から始まり兜へつながった。
作る割合は変わりましたか?
清水
今は、兜が中心ですね。
特に、子供が着用できる兜は主流になりつつあります。
石井
着用兜は、どんな構造になっているんですか?
清水
大まかにいうと、上の丸い部分が鉢(はち)。
後ろの鉢の下から垂れている部分は錣(しころ)。
前の突き出した部分が眉庇(まびさし)、うちでは前つばと呼んでます。
顔の左右から後ろ側に反り返っている部分が吹き返し(ふきかえし)。
紐が忍緒(しのびのお)です。
鉢や眉庇の飾りを立物(たてもの)といいます。
付ける場所によって、前なら前立(まえだて)、横が脇立、後ろが後立。
前立で猛獣の角のような一対飾りを、鍬形(くわがた)といいます。
石井
聞いたことあるような、初めて聞くような単語ですね。
素材は何ですか?
清水
戦国時代の本物の兜はそれこそ鉄や木、飾りは金銀銅に絹でしょうが、五月人形に使われるものは、耐久性があって軽量なものということもあって、プラスチックにアルミ、紐などは人絹(じんけん/人造絹糸の略でレーヨンのこと)か正絹(しょうけん)です。
石井
作業工程はどうなりますか?
清水
まず型を作ってもらいます。
自分で考えたアイデアを、型作りの会社に相談して発注します。
型が出来たら、鉢、錣、吹き返しなど、それぞれ色や模様を決めて、それぞれを外注さんにお願いして作ってもらいます。
各パーツが出来上がって来たら、まず鉢に前つばを付けて、吹き返しを留めるんです。
それから錣を留めて、忍緒を付けて完成です。
石井
さらっと言われましたが、実際にはかなりの手間なんでしょうね。
こちらでは、最後の組み立てをやっているんですよね。
清水
そうです。
うちでは組み立てと、覆輪(ふくりん)という飾り金具の取り付けもやっています。
石井
それぞれのパーツの外注先は、どのくらいあるんですか?
清水
パーツの外注先は、全部で30くらいあります。
錣の編みの部分は、300人くらい抱えた外注さんに、一つひとつ糸通しして作ってもらってます。
材料はすべて送り、企画の種類に合わせて数を作ってもらいます。
他のパーツも同じですね。
石井
たくさんの人の手がかかって、兜飾りが出来上がっているんですね。
新型を発注してから完成まで、どのくらいかかるものですか?
清水
半年くらいはかかりますね。
石井
半年ですか。
清水
毎年、6月に展示会があります。
その前の5月にある程度見せられる状態にしますから、年内には翌年の新作の試作に取り掛かります。
毎年新型を、型代を惜しまず使って作っています。
石井
新しいものは、毎年何型くらい作られますか?
清水
10~20型は当たり前です。
失敗するものや、やり直したりして、翌年にまたがるものもありますから。
大きさの違いもありますし。
石井
でも、買われる方はほとんどが初節句ですから、どれも初めて見るものですよね。
清水
問屋さんは毎年見てますから。
毎年新しいものを出すと、問屋さんが育ってくれるんですよ。
あれが人気らしいとか、こっちにこんなものがあったとか、一緒に研究するじゃないですか。
石井
じゃあ、問屋さんからもアイデアが出されたり。
清水
それも活かしたりしてます。
だから新製品の開発は休まないのが信条です。
着用兜は、10年程前にうちともう一軒が発表してから人気になって、今は一番人気ですね。
おかげでたくさんの注文をいただき、業界の方からも認めていただけるようになりました。
石井
嬉しいですね。
清水さんの兜の特長を、いくつか教えてください。
清水
昔のままでは使いません。
必ず現代風にアレンジして使います。
たとえば、この吹き返しは六文銭、前立にも六文銭が付いて角が付くんです。
真田流ですね。
こういった吹き返しも最初は無かった。
鍬形(くわがた)の形も、僕がデザインしました。
石井
カッコイイ!
真田の六文銭をうまくデザインされています。
新型は一人で考えられるんですか?
清水
そうです。
型のアイデアって日常生活にありますから。
例えば、タイヤのアルミホイールや車のボディーラインとか、神社の家紋みたいなものにピンときたり。
気になる物があったら、写真を撮っています。
石井
清水さんは兜デザイナーであり、ディレクターともいえますね。
他社の兜を真似するのではなく、いろんなものから着想を得て、新しい兜をどんどん生み出されている。
清水
自分も独立した当初は他の商品を分解して研究しましたが、今はすべてオリジナルですから、デザインしたものはできるだけ意匠登録をしています。
着用兜をケースに収める仕様も、パテントを取ってます。
石井
新作はもちろん、ケースなど次々と新たなものを生み出すことができるのは清水さんの強みですね。
それにしても、アイデアは尽きないものでしょうか?
清水
毎年のことですし、常に考えてます。
この感性が残っている内は、まだやれるなと思います。
石井
だから若々しくいらっしゃるんですね。
新作の話になると、目がキラキラされています。
54歳には見えないです(笑)
2代目はいらっしゃるんですか?
清水
一緒に働いています。
石井
それは楽しみですね。
これからも新しい兜、たくさん生み出してください!
貴重なお話、ありがとうございました。
取材日:2013年12月19日
取材場所:埼玉県春日部市
いかがでしたか?
取材したのは、13年の12月。
ちょうど兜作りの最盛期に差しかかるところで、いろんな種類の兜を作っていました。
でも、やっぱりかっこいいと感じるのは「伊達正宗」の兜。
理由は単純。僕、宮城育ちなんです。
なお、清水さんの着用兜は、2月から手しごと本舗(楽天市場)で、ご購入いただけます。
(2014/1/24 編集長・おかざき)