◆藤原了児
有限会社藤プランニング代表。
熊本県生まれ。
自宅1Fのアトリエで制作を行う傍ら、一般の方への絵の指導も行っている。
趣味はカヌー。
競技カヌーをする一方、初級者の方々対象のカヌー講習会も開いている。
写真の方が、大分県の土雛職人・藤原さんです。
土雛や貝合わせなどを制作している藤原さん。
アトリエでの制作活動の傍ら、一般の方々への絵の指導なども行っています。
今回は、貝合わせを制作するようになったきっかけやこだわりなどについて、たっぷりとお話をお伺いしてきましたので、ぜひご覧ください。
インタビュアーは、5歳の女の子を持つママさん編集者・峰岸さんです。
藤原さんの貝合わせ
峰岸
元々は、小さくて可愛らしい「土雛」というお雛様を作ってらっしゃったんですよね?
なぜ、貝合わせを作るようになったんですか?
藤原
今から13~4年前に、岡山で土雛展というのをやる機会があったんです。
峰岸
展覧会ですか。
藤原
たまたま友人が、岡山の辻本店という蔵元の社長夫婦と知り合いだったんですね。
山の中ですけれども、伝統のある造り酒屋さんで、本家の家と蔵を会場として使わせてもらえることになったんです。
そのときに「日本の遊び」も取り入れた方がいいなと思って、貝合わせや羽子板なんかを作ったのが始まりです。
でも、あくまでお雛様のお飾りのひとつという位置付けでした。
峰岸
主役ではなかったんですね。
藤原
貝合わせを入れた長持ちの蓋を半分開いた状態で、宝物という感じで演出したんです。
それを見た方が、その貝合わせを欲しいと言ってくださって、お譲りしたのが始まりです。
峰岸
そうなんですか。
藤原
貝合わせっていうのも喜ぶ方がいるんだなと思って。
それで作るようになったんです。
峰岸
そういう始まりだったんですね。
藤原
ええ。
最初は自分の個展のバリエーションのひとつとして貝合わせが始まったんです。
和の遊びのひとつとして。
実際にそこにいた高校生の娘さんに、貝合わせで遊んでもらったりしたんですよ。
峰岸
そうでしたか。
貝合わせは古くからある雅な遊びですけど、知っている方は少ないですものね。
藤原
そうですね。
「最初は個展のバリエーションのひとつ」
峰岸
この貝合わせに使われている、ハマグリについて教えてください。
どのくらいの大きさのものが適しているんですか?
藤原
文献によると、大体6~7センチくらいの大きさのものが多いですね。
貝合わせは、公家大名の娘さん達が遊ぶので、その掌に収まるサイズというところでしょうか。
峰岸
このハマグリは、魚屋さんなどで売られている普通のハマグリなんですか?
藤原
僕が使っているのは三重県桑名産のハマグリです。
やっぱり桑名のハマグリは、形も美しく仕上がりがいいんです。
江戸時代の昔から、朝鮮のハマグリが入ってきてるみたいですが、僕は使いません。
峰岸
このハマグリが貝合わせになるまでには、どのくらいの工程があるんですか?
藤原
そうですね。
かなりの工程がありますよ。
下地の金箔を貼るまでにも、貝を磨いたり、乾かしたり、下地を作ったり・・・。
「6~7センチくらいのものが多いですね。」
峰岸
金箔は金沢の?
藤原
そうです。
外国産の金箔を取り寄せたこともあったけど、やっぱり金沢の金箔にはかなわない。
値は張りますが、金箔といったら金沢がいいですね。
峰岸
そうですか。
で、金箔をひいた上に源氏物語や百人一首だったり、花鳥風月などの絵を描いていくんですね?
藤原
ええ、そうです。
峰岸
遊びながら、風流な美しい絵も楽しめるわけですね。
物語の場面が浮かんでくるような素敵な絵ですね。
藤原
こちらのこのように描きたいという思いより、その物語のワンシーンが蘇ってくるように、香り出てくるように意識して、色合いなんかも考えています。
作品の大きさや貝の枚数にかかわらず、手にする人の心に響く作品でありたいと心がけています。
「人の心に響く作品でありたい。」
峰岸
手に取って遊べる宝物といった感じですよね。
藤原
そうですね。
特に女性のお客様は、年代にかかわらず本当に喜んでくださいます。
女性は年代を問わず、美しいものやかわいいものを愛でるという、豊かな感性を持っています。
一生懸命作った作品を、心から愛おしく思い喜んでくれる方がいてくれるのは、本当にありがたいことです。
峰岸
そういう思いで作られた貝合わせだからこそ、手にした方の宝物になるんでしょうね。
藤原
そうかもしれません。
貝合わせは、決して日常生活の中にあるものではないけれど、もらった娘さんが大きくなるにつれ、自分の宝物にしていってもらえたら嬉しいですね。
峰岸
ただきれいな貝というだけじゃ、もったいないですよね。
学校なんかで源氏物語とかを学ぶと、だんだんその良さも実感できるんでしょうね。
藤原
そうですね。
幼い頃に遊んだ貝合わせが宝物になって、そこを巣立つときには持って行くような宝物になったらうれしいです。
峰岸
いいですね。
「宝物になったらうれしいです。」
藤原
最近では、外国に住む方からも、注文をいただくことがあります。
海外に行って「あなたの国は?」と聞かれたら説明するのは難しいけれど、こういったものを見せることで、自国の文化を紹介することができますよね。
峰岸
そうですね。
やはり外国に行くと、自分は日本人というアイデンティティーを意識するようになりますね。
藤原
そうでしょうね。
峰岸さん
伝統の遊びを通して、美しい古典の絵巻とか、自分の国の良さを実感できます。
また、外国の人たちに見せることで、日本文化というのを深く知り、広めていくツールになるでしょうね。
藤原
そうですね。
グローバル時代と言われて久しいですが、私たちの子供が大きくなる頃には、もっともっと国際化が進んでいるでしょうから。
国境なんて関係ないような時代になるかもしれませんね。
峰岸
日本人として、日本の文化を深く知っていないと恥ずかしい場面も出てくるかもしれませんね。
貝合わせは、日本の昔からある雅な遊びや美しい物語といったものを、垣間見ることができますね。
藤原
言葉で説明するのは難しいことがあっても、見ることで容易に伝えることが可能になります。
また、自国の文化に興味を持たないようだと、諸外国でもなかなかコミュニケーションが難しいでしょうね。
峰岸
確かにそうですね。
私自身も、外国で恥ずかしい思いをしたことがあります。
藤原
そういった面では、外国に出れば出るほど、日本を深く知る必要が出てきますね。
峰岸
日本の素晴らしい文化を知れば知るほど、こんな素晴らしいものがあったんだ~って、発見もあるでしょうね。
藤原
そうですね。
それと、貝合わせが今でいう神経衰弱とか、現代に続く遊びのルーツになってることなんかも、子供たちに知っておいてもらいたいですね。
峰岸
なるほど。
それも大事なことですね。
しっかり伝えていきたいです。
図柄は源氏物語です
取材日:2013年7月26日
取材場所:大分県大分市 藤原さんの工房
いかがでしたか?
藤原さんとの出会いのきっかけは、峰岸さんが実際に子供のころ遊んだという貝合わせでした。
貝合わせは、平安時代から続く遊びで、現代でいう神経衰弱みたいなもの。
対になる装飾を金箔などで施したハマグリの貝殻を数個~十数個裏返して並べ、対になる貝を選ぶという遊びです。
「美しく」かつ「実際に手に取って遊べる」貝合わせを、日本全国で探しました。
その結果、「これだ!」となったのが、藤原さんの貝合わせだったんです。
ハマグリなどの二枚貝は、元々対となっていた貝としか組み合わせることができません。
だから、「一生添い遂げる」という意味を込めて、昔から婚礼道具の一つとして使われてきたんです。
素敵な話ですね。
なお、藤原さんの貝合わせは、手しごと本舗(楽天市場)でご購入いただけます。
(2013/8/15 編集長・おかざき)